奈良太郎と秋の夜

Roo2011-10-02

東大寺には「奈良太郎」とよばれる国宝の銅鐘がある。
奈良時代のものだが、今でも毎日撞かれる現役の鐘らしい。「一度聞いてみたいんですよねぇ」と上司に話すと、鋳造に詳しい上司が「そうかぁ?あの鐘のあの状態だと聞こえるのはこんな音だぞ」と奈良太郎の鐘の音を真似てくれた。研究に基づいてのリアルな鐘の音の再現のようである。おそろしい。ちなみに、次郎と三郎についても話してくれた。ディープだ・・・。
とにかく(?)、わざわざ鐘の近くにいかずとも、私が住んでいるあたりでも、音が聞けるらしいという情報を手に入れて、鐘が鳴る夜八時に窓を全開にして待ってみた。すると、銀杏の葉が風にゆれる音と鈴虫にまぎれて、確かに、微かに聞こえる。どのあたりまで聞こえるんだろうなぁ、と疑問に思いつつ数日が過ぎたが、たまたま昨夜、家より少し南の方で聞く機会があった。氷室神社で例祭があり、日が暮れてからの舞楽奉納を拝見しにいったのである。

氷室神社例祭の夕座舞楽は午後六時半すぎにはじまり、午後十時ちかくまで続くそうだ。奏者も舞人もえらく大変だろう。中央の舞殿を少し遠巻きに囲むように薪の火に照らされて氏子さんをはじめとする人々が蠢く。もちろん神様のための舞なので、みる人はけっこう自由に話したり、行き来したりする。その雰囲気が、格式ばってみるよりも、なんともいえず良い。私もイスにすわったり、薪の近くで火で暖まったりしたりとウロウロしていたが、ちょうど舞殿の横から立って観ていたところ、龍笛篳篥の音と重なって鐘の音がはっきりと聞こえた。ちょうど大仏殿の東にある鐘の位置から南西に風が吹いていたのか、非常によく聞こえた。つーか、あんなに回数撞くなんて知らんかったし(うちからだと数回しか聞こえなかった)。

写真は出番をまって舞殿をのぞむ舞人です。昔、グラスゴーで観たレンブラントの"Man in Armour"みたいな印象でした。