考古学者の歌

考古学者の歌、というのがある。
春と夏と冬。だいたい年に3回カンボジアを調査で訪れるわけだが、まぁ、自分は予算の都合上、絶対に3回行けるわけではない。ただ、考古や建築の調査はほぼ確実に、長短調査をあわせて年3回おこなわれる。諸先生方が、一番時間がとれるのが夏であるので、考古発掘もこの夏時期に集中しておこなわれる。春季休みもけっこう長いので、発掘がおこなわれるのが、カンボジアでは暑季にあたるわけで、外での発掘はしんどいことこのうえない。カンボジアの考古研修生を受け入れて発掘がおこなわれるのも、夏が多く、長い研修を終えた後は、一応打ち上げみたいなのもおこなわれる。研修が終わる頃には、考古学の諸先生方も日本への帰路につくわけで、送別会もかねてのものでもある。考古学者の歌がきけるのは、そんな宴の席である。
かなりローカルで、外国人客はひとりもいないようなレストランで、20人ほどで飲んで食べる。学生も長い研修が終わって疲れも吹っ飛ぶのか、盛り上がる。そこで、カンボジアの学生から
「じゃ、このへんで1曲歌いまーす!」
という話になり、なぜか日本側にもその順番がまわってくる。
「では、私は『瀬戸の花嫁』なぞを」
コッホン、などと声を整えて歌うのは日本人の先輩だが、この歌はカンボジア語にもなっているので盛り上がる。宴もたけなわになってきて、「先生達もなんか歌ってよ!」という話になる。すると、数人の日本人考古学者の先生方が目配せをし、ふむ、ではまいろうか、ということになる。そして朗々と歌いだされるのが「考古学者の歌」。これが、すごい。大学ごとにいろいろバージョンがあるらしいが、軍歌調のメロディにのって歌われる内容がこれ切ない。
♪惚れ〜た娘は良家の娘 おれはしがない考古学者〜♪
横で「○×先生の奥様は本当に良家の娘で大変だったらしいよ」と囁かれたら、余計切ない。あぁ、先生、それでそんなに心情込めてらっしゃるのですね、と。
歌は、夢をおう考古学者、お金もなくて、あげられるのはこの星空☆ってな感じで続く。
つーか、自虐的ですね、考古学者。
そんな(?)考古学者が世界中から集る夢の祭典(?)「世界考古学者会議」が来年1月に大阪で開催される。考古学者ではないですが、考古学の世界には3分の1ほど浸かってますんで、私も発表いたす予定です。
あぁ、懇親会で世界中の考古学者が「考古学者の歌」大合唱、なんてあったら面白いのになぁ。(そんなことたぶんありません、念のため)