我が家の心霊現象

日本にいる間は、実家に居候である。一応二世帯住宅のようになっており、生活時間も違うので、両親と会うこともあまりない。時々、夜中に食料を漁りに両親のいる二階へ忍び込むくらいである。そういう時は大抵、父親が「昨晩ネズミがでた」と私の聞こえるところで、母と会話をかわす。「最近のネズミは生意気にも饅頭まで食べるらしい」と軽くジョブ(←それをいうならジョグ、いや、ジャブ)を繰り出されるのは、父が次の日用にとっておいた甘味をコソリと食べた後である。「それは妖怪コソリの仕業でしょう」と反論すると、「まぁ、幸福をもたらす座敷童ではないことは確かだわね・・・」と母。
しかし、どうやら我が家にも、とうとう(?)心霊現象らしい出来事がおきた。ある日、二階の居間の一人かけソファーが1つ水浸しとなっていたのである。1泊2日の旅行から帰宅した母が座ると、じんわり湿っている。調べてみると、その下の絨毯が小さい水溜りのような大きさで濡れているという。上下左右には水気がないし、家族の誰にも身に覚えがない。当然、旅行中に家でひとりであった、私が疑われた訳だが、私が出入りするのはもっぱら台所だけである。
こ、これが心霊現象というものではっ!
と、人一倍興奮するのは母である。夏の心霊特集番組は録画する勢いで観ているのだが、本人は全く心霊関係と縁がない。こうした人は、自分は全く体験がないくせに、やたらに心霊現象の事象に詳しい。「タクシーの運ちゃんが夜中に客を乗せるが、振り返ると誰もおらず、シートが濡れている・・・という王道パターン。今回は、タクシーのシートならぬ、家のソファーであるが、家族全員覚えがないのに、水で濡れているのは事実であるからして・・・」などと推測する。なんとなく、原因がはっきりしないのは、気持ち悪いので、私も居間でダラリとテレビをみている父を横目に、母と、天井に水漏れはないか、など周囲を確認する。
あーでもない、こーでもない、と正体不明の水の成分までに話が及んだ時、テレビを観ていた父が手元の焼酎水割りを片手にスクッと立ち上がった。すすす、と問題のソファーの傍に近寄ってくる。そして、突然身振り手振りを加えながら語りだす。なんだか刑事コロンボみたいなタイミングである。
「オレは思うんだよね。ほら、旅行に出発する前の、一昨日、○澤さんが来てたじゃないか」
そう、ゴルフ好きの近所のおば様がいらしていて、父母とあわせて夜3人でビデオに撮った藍ちゃんのプレーなどを、ビデオで観ながら熱心にフォームの研究をしていたのは、私も覚えている。
「その時さ、オレは台所で水割りをつくって、居間にはいってきて、ここで立ち止まって(と、問題のソファーの横に立つ)藍ちゃんのプレーを観たわけ」
ふむふむ。
「○澤さんはこのソファーの横に座っててさ。で、オレは『あー、ここは肩をこういう風にして』というようにフォームを○澤さんにして見せたんだよね」
こーんな風にね、と実演してみせる父に、私と母は、この人あやしくない?と、だんだんジト眼。そんな目線に気づいたのか、言い訳を始める父。
「いや、オレは全く覚えがないよ?全然なんにもこぼしてないよ?けどね、まぁ、その時に手に持っていた焼酎がどうにかなって、ソファーにこぼれた、という可能性もないわけではないわけで・・・」
いやぁ、まぁ、仮説だけどね、と台所に立ち去る父を見送って、我が家の心霊現象のホシはあがったのである・・・。