そして、その顛末

前回の続き・・・

ガイドブックにあったように、石油ランプにのみ照らされた通路はけっこう暗い。前をゆく親子連れも、シルエットがかろうじて認識できるくらいである。カップルで来ていたらアレですよ、「きゃー、怖い」と彼女がガシリと腕にすがりついてくるような暗さですよ。けど、某Dランドのお化け屋敷みたいに実は全然怖くない、というやつですよ。(この辺で、あー、なんでひとりで来ちゃったんだ、私、と思い始める。)
外の暑さが嘘のように冷たい空気、そして時々あらわれる水溜りを避けて進んでいくと、石油ランプのもとに描かれた壁画がぼんやりとみえる。アレ?これってスペインでナントカちゃんが発見した、と中学のニューホライズンという英語の教科書に出てきた壁画に似てないかい?(わかりにくくて、ごめんなさい)あ、ここにも。あれ、あんなところにも。
イムリーに「ズンドコ、ズンドコ」というリズムの音楽が聞こえてきてビクリとする。もしや、このいたるところにある壁画もどきが「先史時代の壁画が楽しめる」とガイドブックにあったやつですか。
あ、ありえない。
ショックを受けて立ち止まれば、BGMの「♪ズンドコ、ズンドコ♪」は大きくなるばかり。そればかりか「♪ズンドコドコ、ドコズンドドコ♪」と私を置いて盛り上がる。狼の遠吠えが聞こえてきそうである。いや、それはちがうか。ハッと気づけば、親子連れにも置いていかれている。こんな怪しい空間に一人にしないでくださいよ、おとうさーん(あちらはいい迷惑である)。
気をとりなおして、まだローマ遺跡があるじゃありませんか、と足を進める。と、ここで嫌な考えが私を襲う。あれ?ハンガリーってローマの支配下にはいったことあったっけ・・・?と馬鹿な事を考えるが、大丈夫。今回は行けなかったけど、ブダペスト郊外には有名なアクインクム遺跡というローマ遺跡がある。ここにあってもおかしくない。大丈夫、大丈夫、とすごい勢いで、親子連れも追い越して先へと進むと、急に馴染みある香りが鼻に届く。「あれ?これって・・・」と、クンクン嗅ぎながら犬のように香りを辿っていくと、いつの間にやら、あの怪しい音楽が消え、代わりにさらに怪しい音楽が流れてきた。その音楽は、まるで「花の子ルンルン」のテーマソング。明るい、どこまでも底抜けに明るい音楽。
すると、前方に突如、音楽と同じくらい明るい空間が出現した。こんな真昼のような明るさラビリンスらしくない!しかも、20平方メートルほどの空間、その真ん中には白大理石の噴水がある。4方向に設けられた小さな口から流れ出た液体が、涼しげな音を作り出している。香りの正体は、その湧き出てくる液体である。水ではない。なんと、その噴水からは赤ワインが流れ出ていたのである!
こういう「箪笥を開けたら、そこはナルニアでした」風驚きは久しぶり。カンボジアの下宿で、昼休みに帰って門を開けたら、ワニがいた時以来の驚きかもしれない(そんなことしょっちゅうあったら困るけど)。
ワインが湧き出る口はちょうど人の頭の位置にあり、手ですくって飲むにはちょうどいい高さ。周囲にグラスなどは見当たらないが、どーぞ、飲んでちょうだい、ってな感じである。人間性ってこういう時にでるのよな、と思う。RPGなら①飲む、②やめる、③誰かが飲むのを待ってから飲む(←ひどい)、てな選択か。一人だから③の選択はないとして、私のとった行動は小市民度まるだし。つまり、噴水のまわりを一周して、部屋のなかにドッキリカメラが隠されてないかチラリと調べ、ワインに口を近づけた後、「やっぱり、やーめた」っと、部屋を立ち去ったのである。これが遠野物語にでてくる「迷い家」ならオニギリ持って立ち去るところだが。
そのまま、わき目も振らずにどんどん進んで、気づくと外。上を見ると憎らしいくらいの青空と、そびえたつブダの王宮。王宮がある丘の途中からポーンと外に放り出された感じ。あれ?ローマ遺跡は?どこ?どこにあったの?と地図を確認するが、そんな表記はない。暗くて読めなかったが、説明をおっていくと、王宮の地下で発見された地下空間をみんなが楽しめる「ラビリンス」というエンターテイメントとして改造した、というオチであった。

まぎわらしいこと書くなっーーーーーー!!!!!!!!!とガイドブックを責めるブダペストの初夏。
はい、入り口でそれを悟らなかった私が悪いです。すんません。
けどみなさん、ラビリンスには十分注意しましょう。