ラビリンスの誘惑

以前、1泊だけしたブダペストについてダラダラと書いておきながら、非常に重要な事件を言い(書き)忘れていた。おそらく、自分の中の「なかったことにしたい」という気持ちが自動的に記憶を抹消したのだろう。ブダペストから帰ってきた時は、けっこう興奮してその話をしていたのに、日がたつにつれて徐々に記憶から消えていった。先日、ブダペストがチラリと話の話題になった時、ようやく思い出した次第である。そう。「ブダのラビリンス」。えらい昔の話題で申し訳ないが、今後の戒めとして書いておきたい。

ヒルトン建設に関する歴史的景観の議論について、ディスカッションを続ける人々を置いて、密かにむかった先は、骨董通りだけでなく、実はもう1つあったのである。それがラビリンス。ガイドブックに「地下迷宮:王宮の丘の地下に広がる洞窟を石油ランプの灯りを頼りに探検。先史時代の壁画やローマ時代の遺跡などが楽しめる」と書いてあったのだ。
ラビリンス!
ミステリーファンにとっては、密室の次ぐらいに魅力のある言葉である。しかも「王宮」の地下に広がる広大なラビリンスなんて、クレタですか、クノッソスですか!ミノタウロスですか!!とロマンも広がる。
これは行くしかないでしょう、ということで行ってみた。

ラビリンスの入り口は、観光客で賑わう通りからはずれた裏通り。目印もなかったので、地下深くのびる階段の上で戸惑うことしばし。あまり人が通っていないような埃っぽい階段と、雨に濡れて色あせた案内版が不安を誘う。案内版から、入り口は16m下に階段で降りたところにあるらしい事がわかる。しかし、進んでいいのか、戻ってこれないのではないか、本当に1000円近くも払って見学する価値のあるのか、などの迷いが生じる。既に別の意味でのラビリンス到達である。
5分ほど階段の上でウロウロしてみたが、背後を通りすぎた観光客用の馬車の御者が「これはラビリンスと申しまして・・・」と説明する声に押されて足を踏み出す(人が話題にするものに弱いのである)。けっこうな階段を降りていくと、ぼんやりとした灯りに照らされた空間に出た。
「入り口こちら」という看板に従っていくと、けっこう近代的なチケット売り場が出現。美術館のようである。覚悟を決めてチケットを購入すると、いつの間にやら私の後ろに4歳と6歳くらいのお子さんを連れた父親らしき人物が並んでいる。案内図と順路を渡されて進んでいくのだが、ラビリンスを一人でウロウロするのも寂しいし、黙ってその親子と距離を保ってついていくことにする。だって、王宮の下に広がる地下空間なんて、過去の使用目的が明らか過ぎて怖い。手元には配布されたけっこう詳細な地図。まぁ、本当に迷う人がいるかもしれないもんね。ふむふむ。そんなわけで、詳細な地図を片手に迷宮に足を踏み入れたのであった。

後半へ続く(← な、長くなってしまったので)