Queen of....?

ブダペストでは1晩だけ過ごした。ハンガリー料理ってなんだろう?と思って楽しみにしていたが、ポーランド人がベジタリアン・レストランを見つけたので、行ってみることにする。教授とあわせて7名で、トコトコと歩いて目当てのレストランを探す。世界で2番目に大きいというシナゴーグを通り過ぎ、市民公園方面に歩くこと20分。そろそろ教授の堪忍袋も切れるんじゃ、と思った頃にレストラン発見。混んでるわけじゃなく、ガラガラでもないというイイ感じ。皆がハンガリー料理風ベジタリアン・メニューなるものを注文するのに反発して、豆腐とライスセットを試してみる。しかし、やたらにイギリス英語を話すウェイトレスさんに「これ、甘いのよ?」と忠告を受ける。甘い豆腐ですか・・・と悩んでいたら、「甘くないようにしようか?」と提案を受ける。そんなんできるんや、と頼んでみると、微妙な味付けの豆腐がきた。いっそ甘い方が潔かったのか?最後に、「店に対するコメントを書いてほしいんだけど・・・」とゲストブックを持ってきたので、皆で記念にサインとコメントを書く。「米を炊くときは、もう少し水を少なめにしてはいかがでしょう?BY日本人」「フレンチフライ上手かったBYベルギー人」というコメントは、果たして店の発展に役に立つのか・・・。

その後、やっぱりブダペストに来て夜景を見ないで帰れませんよ、という事になり、また同じ道を今度は元気よくドナウにむかって歩く。教授はリタイヤしたので、時間も距離も気にする必要はない。いろいろ立ち寄りながら、ペスト側のドナウの岸辺に着くと、向いのブダ側に素晴らしい夜景が広がっていた。ベルギー人が「食後の1杯、1杯」と場所を探している。どっかカフェでも入るのかな、と思っていたらドナウ河沿いの夜景のきれいなベンチをみつけて、いそいそと準備を始めた。彼女の大事そうに抱えていたリュックからは、「トカイ」といわれるハンガリーの白ワインと紙コップ、ワイン・オープナーがでてくる。えらい準備の良さである。
「野望に乾杯!」と5人で将来の野望をドナウに誓い、ご機嫌で「くさり橋」をフラフラ渡る。ブダ側で折り返し、またペスト側に向かっている途中、じゃ、ここらで1枚夜景をバックに写真でも、と後ろを振り返ったらライトアップが全て消えていて、一同唖然。すべてのライトアップは夜中の12時に消灯する仕組みらしい。早く言ってよ。

ブツブツと文句を言いながら橋を渡りきると、目の前にはアールヌーボ建築グレシャム宮殿。修復後、現在はフォーシーズンズ・ホテルとなっている。「あの正面の上がスイートなのよ」と、以前、中をひと通り見てまわったというベルギー人建築家(シシールという)がおっしゃる。彼女の知り合いが修復担当として働いていたらしく、建物を案内してもらったことがあるらしい。彼女の説明を聞きながら、フムフムと荘厳な建物を見上げながら近づくと、なにやらホテル玄関前に30名ほどの人がかたまっている。どうやら誰かの「出待ち」もしくは「到着待ち」らしい。興味深々で近づいて、誰が来るのか、かたまっている一人に聞いてみると、「Queen!」といわれて、シシールがいち早く「Queen of Hungary?!!」と反応した。いや、ハンガリーに女王はいないだろう。っつーか、王族いないだろう。と冷静なツッコミをいれると横でイタリア人がツボにはまったらしく、大ウケしている。その時、黒塗りの高級車が玄関に到着し、ジーンズに皮ジャン、というかなりラフなかっこうをしたおじ様が出てくる。待っていた人々がいっせいに彼の名前を呼ぶが、それも騒がしくてよく聞き取れない。誰か有名人であるらしい、と見ていると彼がこちらの方に近づいてきて、サインをし始めた。「Are you fan?」などと色紙を差し出す人に確認をとっている。私も何か差し出して書いてもらった方がいいのかと考えたが、誰かもわからないで「Are you my fan?」と聞かれたらなんともいえない。しかし、フト気づくと、横にいたはずのシシールが、いつの間にか、もみくちゃにされながらサインをもらっている。「みて!サインもらっちゃった!」と興奮して帰ってくるシシールに、「で、誰かわかったの?」と聞くと「え?知らない」と天然な返答がかえってくる。「Queen of Hungaryだよね」と、イタリア人はまだウケている。彼女には、彼らがバンドのクィーンだとすぐにわかったらしい。
結局、シシールが手に入れたクィーンのベースかギターのサインは、生粋のクィーン・ファンだという友人のお父さんへの土産となった。
「騒がしき夜」って、まさにこんな感じかなぁ。