聖なる夜

Roo2005-01-06

EU諸国からきている留学生はほとんど家に帰る。アジア諸国からの留学生は帰国しない生徒が圧倒的に多いが、まぁ2週間ちょっとの長い休みなので、これを機会に帰る学生も多いみたいだ。イブ前日まで大学では講義が行なわれるが、話題は「休暇をどこで過ごすか」だ。パキスタンからの留学生は一人で寮で過ごすと言っていたが、それを聞いた人々が黙っているはずがない。皆親切に、かつ熱心に自分の家のクリスマス・ディナーなり、ランチなりに彼を招いていた。曰く、「クリスマスを一人で過ごすなんて、するべきではない」とのこと。一人で過ごせば、罰があたりそうな勢いである。

かくいう私は、寒いので、パリの友人宅へ避難することにした。しかし、彼女も日本人だし、一人暮らしだしで、本場のヨーロッパにいながら、どんなクリスマスになるのかと思っていたら、偶然手に入ったチケットで、バレエを観に行くことになった。チャイコフスキー「眠りの森の美女」。初バスティーユ。しかし、これで味をしめて25日の夜は、やはりバスティーユでおこなわれたロッシーニの「セビリアの理髪師」を観にゆく。意外や意外、2日間とも満席。家族連れも姿も目立つ。特に、「眠りの森の美女」は子供にもわかるような単純明快さだし、まだ小学生くらいの子供の姿がチラホラ。ふむふむ、こんなクリスマスの過ごし方もありなのね、と学習。

クリスマス本番はオペラの前に、クリスマス・ランチに仏人の友人宅に招かれたので、お邪魔する。友人カップルの彼氏の方の実家に招かれたので、構成メンバーは彼氏の家族(両親、妹、彼、彼女、祖母)、そしてお祖母様の古い友人であるという老婦人。そして私。スパークリング・ワインとおつまみで居間でゆっくりしてから、ダイニング・ルームに行くと素敵なテーブルセッティングがされている。もちろん料理はコース。フォアグラから始まって、デザートのブッシュ・ド・ノエルまで。メインは羊だった。「フォアグラ食べたことがある?」と聞かれたので「カンボジアでね」と答えたら、そりゃ本当にフォアグラか?と疑われた。いや、フランス生まれのカンボジア人教授のお家だったから、ホンモノだったと思うけど。
驚くべきは、そのワインの種類の多さである。フォアグラには、これ。メインにはこれ、チーズにはこれ、と出てくる、出てくる。フォアグラのあまりの美味しさに集中していたら「ワイン!ワインも一緒に楽しまなくちゃだめだよ!」とお父様に注意されてしまった。はい、すみません。
しっかし、また出てくるワインがうまいんだな、これが。お酒に弱い私でも思わず、食も飲みもすすむシロモノばかりである。最後の珈琲まで、実に3時間以上かけたランチであった。それにしても、家族の集まりに私のような余所者がお邪魔して、あんな美味しいものをご馳走になって悪いね、と言うと「いつも同じメンバーだから、変化がほしいとこだったよ」と笑ってくれた。

お腹がいっぱいになったし、オペラの時間までちょっと散歩しながらパリを案内するよ、と友人が夕方のパリを案内してくれた。シャトレで地下鉄を降りて、シテ島へ。ノートルダムの横を通って、サン・ルイへ。賑やかな街を通り過ぎながら、歴史的建造物が多く残るマレ地区にはいって、バスティーユまでの聖夜の散歩。オランダ語・仏語・ドイツ語・英語でのパリ・ガイドとして働いていたことのあるオランダ人の友人は、丁寧にいろんな場所を説明してくれる。晴れた夜空を見上げたら、きれいな月が大聖堂を柔らかく照らしていた。
いつも同じメンバーが毎年食卓を囲み、飲み、食を楽しむのはとても大切で幸せなことだと思う。そんな人々の幸せが、この日を聖なる夜にしているのかもしれない。願わくば、世界中の人々がそんな幸せをもてますように。

<後日談>
「クリスマス・ランチどうだった?」と他の友人に聞かれて
「うん。うまかった、フェラガモ」と答えたことは、怖くて招いてくれた友人にいえない。「フ」しか合ってないし。だって、小さい頃はフェラガモって鴨の一種だと思ってたしね。