犬の名は

カンボジアの朝は早い。明け方に寝て昼前に起きる、という生活に慣れた私にとって、カンボジアの生活は奇跡の繰り返しのようなものである。朝5時半に起きて6時には家をでる。バイクに乗ってセンターに向かえば、朝の光の中を托鉢途中の僧侶達が列を組んで進んでいくのに出会う。
こんなに朝が早いと、朝ごはんなしでは昼までもたない。故に朝食をとるため、いくつかの行動パターンができあがる。
①センターの朝ご飯に期待する
発掘期間中にセンターに滞在している考古学者が飯炊きをする時がある。しかし、人数を把握してないため、常にご飯が残っているとは限らないし、彼が具合が悪い場合や寝坊した場合は必然的に飯がない。危険な賭けである。
②途中でなんか買う
これはよくする。大抵は道端で売られているバゲットを手に入れる。よくいくのは、牛肉を煮詰めたものをバゲットに詰めてくれる屋台である。1000リエル(30円くらい)也。時々は、町で一番のベーカリーと評判の「ブルーパンプキン」に寄って、クロワッサンやレーズンパンを買う。ここは本当においしい。フランスのベーカリーにも負けていないパンを販売している。
③どっかで食べる
カンボジアの人達は外で朝ごはんを食べることが多い。改築前のバイヨン・レストランは手前を一般のカンボジア人の朝食用の場所として開けており、観光客はレストランの奥の場所を用意していた。その手前のレストランは古い食堂、といった雰囲気で、近所の親父さん達が熱くて甘い練乳入り珈琲をずずりとすすって、ゆっくりとテレビを観ていたもんである。増加する観光客に対応するために、そういう場所がなくなってしまったのは残念である。
カンボジアの朝ごはんで一般的なのは「クエティオ」といわれる麺、「ボボー」といわれる粥、「ノゥパン」といわれるバゲット、そして「バーイ」といわれる米である。私のお気に入りは「バーイ・サッ・チュルック(豚)」といわれるもので、これは白飯の上に焼いた豚肉がのっている。朝からなかなか重いが、これを食べたら余裕で昼まで持つ。飲み物は無料でおいてある熱いお茶をいただくが、大好きなのは練乳入りアイス・コーヒー。カンボジア語では「カフェー・タク・ダッコウ・タッコウ」というが、これが最初のうちはなかなか通じなくて苦労した。ある時はホットできたり、またある時は練乳入りアイス・ティー(これはすごくまずかった!)がきたりと、もう最後には何がくるのか楽しみになって、しつこく注文していた気がする。店のお兄ちゃんと私の静かな戦いである。
それでもやはり朝から豚肉ごはんというのは、なかなかハードで、時々食べきれなくてあまったものを持ち帰り用に包んでもらう。センターの犬にあげるためである。そして、われらが愛犬の名は・・・チュルック。つまり、とも食い。つまり、ネコに「犬」と名づけてるようなもんである。いや、べつに豚に似ているわけではないけれど。