マグリットの空

Roo2004-10-09

中学の時にアメリカ人の文通相手がいた。英語の上達をはかるために父が知り合いのアメリカ人の子供を文通相手として紹介してきたのだ。しかし、何を書いたらいいのかわからない。そんな私に対して父は何でも、趣味なりなんなり好きなものを書けばいいという。
そこで、当時中学の美術の教科書に載っていたルネ・マグリットの絵について書いた。打ち寄せる波のむこうにはどんよりとした雲。その真ん中を切り抜くように大きな鳥が羽ばたいている。そのなかに広がっているのは青空、という絵だ。「大家族」と題せられている絵である。この絵の細部にわたる描写についての手紙なんて受け取ったアメリカ人中学生は、退屈だったに違いない。しかし、私はこのマグリットの描く不思議な世界が好きだった。まぁ、好きだといっても、画集を集めたりするほどでなく、毎年の美術の教科書に載っている彼の絵を見ては、ボッーと考えたりしていたのだ。(教師はその私の態度を「寝ている」と解釈していた。)

ベルギーにきて、初めてマグリットの「空」がわかった。ベルギーの天気は変わりやすく、雲と雨が忙しいくらい速く流れていく。そして、時々のぞく晴れ間はまさにマグリットのそれである。
どんよりとした雲が晴れて、あわただしく顔をだす水色の空。そして、そこには流れの速い白い雲が映し出されている。

青空が多く描かれていたマグリットの作品で、私が気に入っている青空以外の「空」がある作品がある。それはブリュッセルの美術館に展示されている。遠くには、晴れた日の夕暮れ時を思わせる空。森を思わせる木々に囲まれたつ1本の外灯。そのぼんやりとした灯りは暗い木々にさえぎられ、その後ろに立つ1軒の家を薄く照らしている。


マグリットはほとんど自分で作品に題名をつけなかった。発作的に創られた彼の作品に題名をつけたのは彼の友人である。その絵にマグリネットの友人がつけた題は、「光の帝国」だった。

そこにあらわれた限りなく現実に近い非現実性は、いまも私を惹きつける。